新湊大橋物語
どうも,橋梁趣味者のまるさです.
この記事はまるさのぼっちアドベントカレンダー5日目の記事です.
大型橋特集3回目です.どんどんいきます.
今回は斜張橋の話です!!!
斜張橋ってなんだ
斜張橋は,主塔から斜めに張ったケーブルで主桁を吊り下げる形式です.
ときどき斜張橋を指して「吊橋だ」という人がいますが,よく見ると随分違います.
斜張橋と吊橋の違い
図の通り,多くの場合主塔の両側で吊るために,吊橋と違って主塔に対して死荷重による曲げモーメントが発生しません.
ですから,アンカレイジのような荷重を支えるための構造を持っていません.
色んな所で見られる形式ですが,関東近郊であれば横浜ベイブリッジが大変有名ですね.
横浜ベイブリッジ by DeepSkyBlue CC-BY-SA 3.0
びゃーっとケーブルが出てるの,可愛いですよね.
このケーブルのびゃーっ具合にもいろいろあって,およそ3種類に分類*1されます.
ケーブルの延ばし方とその名称
桁に対するケーブルの角度が大きいほど桁のたわみ剛性が大きくなるので,放射型やファン型のように主塔の上に寄せる形式がしばしば採用されます.
じゃハープ型はどうなんだ.
橋フォルダを漁ってたらいつだったかはるか遠くに橋があって喜んで撮った写真がありました.
東神戸大橋
これは485mという大きな中央径間長を持つダブルデッキ橋で,大変素晴らしい長大橋であります.
ハープ型の利点は,その美しさもありますが,桁方向の剛性の高くなる性質にもあります.
長大橋はその死荷重の大きさから耐震性能も求められるのですが,東神戸大橋はその戦略として主桁と主塔を結合しない絶縁構造をとっています.
桁方向に揺れると主塔の弱い方向への曲げモーメントが発生しますから,ハープ型にすることで危険な揺れを回避しているんですね.ふむふむ.
初日の記事でもさらっと紹介したMiho Museum Bridgeも斜張橋の一種*3*4です.
「えっこれは!」という大変美しい橋で,斜張橋の景観性のポテンシャルの高さを見せつけてもらえた橋です.
いやぁ,斜張橋もいっぱい事例があって楽しいのでとっても楽しいです.
紹介したい橋が多すぎる・・・
斜張橋のイントロはこのぐらいにして,はやく事例研究しようしよう
富山新港の大型斜張橋
今回紹介するのは全長600m,主径間が360mの日本海側最大級の長大橋,新湊大橋!
関係ないですけど,富山はカッコいいトラムがたくさん走っていていいですね!
トラムかっこかわいかったのでちょっと紹介させてください
新湊大橋に行くには,富山駅からあいの風とやま鉄道線にゆられ,高岡駅から路面電車万葉線に乗り換えます.
低床電車ばかり紹介しましたが,帰りはレトロな車両*5で帰りました.
いやあアチコチ路面電車でとってもいい・・・
閑話休題.新湊大橋は越ノ潟駅からちょっぴり歩くとすぐにたどり着きます.
新湊大橋は橋の下にプロムナードが設けられているダブルデッキ構造になっています.
風が強いのでたぶん上のデッキに歩道つくると危なかったんだろうなあ.
あいの風プロムナードのようす
このプロムナードは主桁の下にフレームを吊り下げてデッキにしている*6ので,たぶん構造的な寄与はないはずです.
なんかちゃんと写真残ってる橋紹介できたの初めてな気がする・・・
渦励振とその対策
主桁架設の後,新湊大橋ではたわみ振動が観測されました.
この振動は技術検討委員会で渦励振とよばれる振動であると判断されています*7.
前回紹介した初代Tacoma Narrows Bridgeでも,崩壊原因のねじれフラッター発生の直前の大きな上下振が同じ渦励振だそうです*8.
「想定より大きい揺れだけど構造的には平気,でも不安になるといけないから対策するよ!」というところで対策が講じられることになります.
こういうのってどんな感じで対策するのかなーってことで調べてみました.
*9の論文では,「フラップ」「フラップ+桁下導流板」「TMD」の解決方法が提案されていました.
てっきり構造の強化とかしなきゃならないのかなあとか思っていたのですが,最終的には空気力学的な対策であるところのフラップ案が採用される*10ことになります.
フラップは桁の上部に取り付けられる
実際の図面とか見てみると「えっこんなんでいいのんか!」とか思っちゃうくらいアッサリとした解決手法です.
いやー,エレガントだ.
箱桁の長大橋とかだと,ひょっとすると他にもフラップのついた橋がみられるかもしれません.
斜張橋はいいぞ
斜張橋は数多く見かける橋でありながら,それぞれ意匠を凝らされたいい橋であることが多くて良い形式です.
よく見かける形式ですが,軟構造の長大橋となると地震対策や風対策など多数の振動対策が必要になってくるわけですね.
同じスケールの橋でも,吊橋と斜張橋でどう対策を施しているのか見比べるのはとても楽しいものです.たのしい.
今回紹介した新湊大橋は施工中に問題が発覚して新たな対策を~みたいなストーリーだったので,論文漁りがとても捗って楽しいものでした.
うーん,土木の人たちって本当にすげえなあ.
というわけで
今回はこの辺で ノ
まるさ
*1:土木学会鋼構造委員会鋼構造進歩調査委員会, "鋼斜張橋-技術とその変遷 1.概要," 土木学会, 鋼構造シリーズ5, 1990.
*2:しらべてみたら14.2km離れたところから撮影してました
*4:というかこの橋だけで記事書きたい
*5:デ7000かな
*6:宮沢ほか, "新湊大橋(PC上部工)の施工," プレストレストコンクリート技術協会, 第19回シンポジウム論文集, 2010.
*7:渡邉ほか, "伏木富山港(新湊地区)臨港道路東西線(新湊大橋)の耐風対策について," 北陸事業整備局, 平成25年度事業研究発表会, 2013
*8:米田ほか,"旧タコマナローズ橋のねじれフラッター特性に関する解析的考察," 土木学会, 土木学会論文集, No.752, I-66, pp89-104, 2004.
*9:由井ほか, "新湊大橋の鋼桁耐風対策について," 沿岸技術研究センター論文集, No.13, 2013.
*10:森越ほか, "伏木富山港(新湊地区)臨港道路東西線(新湊大橋)の耐風対策について," 土木学会新潟会, 第31回土木学会関東支部新潟会研究調査発表会, I-214, 2013.