失われた橋から求めて
どうも,橋梁趣味者のまるさです.
この記事はまるさのぼっちアドベントカレンダー4日目の記事です.
大型橋特集2回目です.
今回は吊橋の話です.
吊橋ってなんだ
吊橋は,主ケーブルで桁を吊り下げて支える形式の橋です.
シンプルな吊橋の例
主塔だけではメインケーブルを支えることはできないので,アンカレイジと呼ばれる巨大なおもりで支えています.
明石海峡大橋のアンカレイジ by Google, DigitalGlobe, ZENRIN
アンカレイジってすごい良いですよね,あーキミがこの橋を支えてるんだなあって,ふんふん・・・
ちなみに,地盤が強固な場所ではアンカレイジを使わず地盤に直接アンカを打ち込んで支えとする場合もあります.
吊橋というと山奥に掛かってるボロボロの橋みたいなイメージかもしれないですが,レインボーブリッジをはじめ,明石海峡大橋や南備讃瀬戸大橋などなど,1000mを超える大きなスパンを持つ橋はほとんどこの形式です(ひょっとすると全部?).
長大橋ではアンカレイジを側塔として,主塔-側塔間にも橋を吊り下げることがあります.これが3径間吊橋ですね・・・!
主径間の両端にヒンジを設けて単純桁にしたものが一般的で,これが2ヒンジ吊橋と呼ばれるわけです.ヒンジを設けると主径間-側径間の間に折れ角が生じるため,鉄道を通す場合などは連続桁にする場合もあるようです.
単純桁の場合と連続桁の場合
そして補剛桁にトラス構造を用いた場合,補剛トラス吊橋と呼ばれます.他にも箱桁を用いる場合もあります.
だいぶ吊橋のことがわかってきた(わからない)
"近代吊橋の原点"
まずはじめに紹介するのはアメリカはニューヨークのBrooklyn Bridgeです.
Brooklyn Bridge by Postdlf CC-BY-SA 3.0
Brooklyn Bridge以前のワイヤケーブルの吊橋では,「より線ケーブル」をメインケーブルにすることが一般的でした.
しかしながら径間が伸びるとメインケーブルも長く重くなり,渡すことが困難になってくるわけです.
そこで,Brooklyn Bridgeの設計者であって近代吊橋史上最も高名*1なJohn Roeblingは,より合わせる前の素線をそのまま渡して,最後にそのまま束ねてしまう「平行線ケーブル」による吊橋を確立させます.
より線ケーブルはより合わせによって強度低下がおこります*1.
このため平行線ケーブルによる長大橋建設ははこれ以降主流の手法となっていきます.
たわみ理論による長大橋の経済化とその危険性
径間が長大となる場合,ケーブルのたわみによる影響が無視できなくなり,これを考慮した「たわみ理論」をRitterやMelanが発表しました*2.
補剛桁の曲げモーメントは次の式で与えられます.
- 弾性理論 :
- たわみ理論 :
それまで用いられてきた弾性理論と比較すると,なる項が追加されています.
詳細は文献(*2)に譲るとして,この項の意味は「活荷重と死荷重による水平張力の和と活荷重によるたわみの積だけ補剛桁の曲げモーメントを減らすことができる」という感じになります.
つまるところ,今まで活荷重増えると桁への負荷増える気がしてたけどケーブルがたわむから案外何とかなる(桁への曲げモーメントは活荷重に比例しない)ということを指摘したというわけです.
すごい(こなみ)
1909年,この理論をLeon MoiseiffがManhattan Bridgeの設計に採用してから,現在でも設計計算の手法としてよく用いられているそうです*2.
この後の1940年,Moiseiffによる設計のTacoma Narrows Bridgeが竣工します.
初代Tacoma Narrows Bridge
しかしながら,この橋は竣工後わずか4か月後に風によって崩落することになります.
「揺れやべえ」と思った研究者による映像記録があることから,今日でも設計の失敗事例として大変有名な橋です.
もちろん,みなさん大好き失敗事例データベースにも収録があります.
初代Tacoma Narrows Bridgeの崩落
これは,軽量化によって薄くなった桁による渦の発生が原因だとされています.
桁が薄くなると,次図のように一度桁から空気の剥離が起こりやすくなり,ちょっとしたきっかけで上下交互に渦が発生(自励振動)してしまいます.
渦の発生とねじれ振動
Tacoma Narrows Bridgeではねじり剛性が非常に小さかったために,崩落という結果につながりました.
Tacoma Narrows Bridge以降,補剛桁は風の影響を受けにくくねじり剛性の高いトラス桁や箱桁が採用されることになります*2.
そして全長3.9kmの長大吊橋へ
1998年,明石海峡大橋の供用が開始されます.
明石海峡大橋 by Tysto CC-BY-SA 3.0
この橋の中央径間1990.8mは世界最長であるとしてギネス世界記録に認定されています.
3径間にも関わらず全長は3.9kmにもなり,とてつもない規模の橋となります.
これだけの規模になると,部品一つ一つの許容誤差を大変に小さなものにする必要があります*3.
報告の文献は見つけられませんでしたが,主塔の最終的な傾きが28㎜とかなんとかという話も・・・
明石海峡大橋について真面目に紹介し始めるとそれだけで一冊本が書けそうな気がするので詳しくは紹介しませんが,長い歴史の中でのたくさんの発見と失敗,日本の施工技術力が合わさってこその橋なんだなあと・・・
美しいですね・・・
吊橋すげえや
吊橋はそれなりに古くからある形式にも関わらず,径間がキロメートル規模になるとやはり吊橋の形式をとる必要があります.
しかしながらたわみがあって変形が多く,長くなるほど様々な影響を考慮する必要があります.
いやぁ,設計する人も施工する人もマジすげえよなあ・・・
施工の記録もめっちゃ面白いので読むといいですよ,めっちゃいいよ長大橋.
ぜんぜん書き終わる気がしないのでこれくらいにしておこう・・・
というわけで
今回はこの辺で ノ
まるさ