橋梁趣味者宣言

どうも、橋梁趣味者のまるさ@maruuusa83です.

この記事はまるさのぼっちアドベントカレンダー1日目の記事です.


世の中には色々な趣味がありますが,ぼくの趣味のひとつに「橋を味わう」というものがあります.

ぼくなりの「橋の味わい方」について語っていくのが今年のぼっちアドベントカレンダーチャレンジになります・・・


毎年完走できてないですが今年こそは・・・










橋の美しさってなんだろう

人が橋を「美しい」と感じる理由はいろいろあります.

意匠の凝らされたランドマーク,世界で有数の長さ,夜のライトアップ・・・

まぁ色々な美しさがあると思いますが,

今回はぼくがどういうときに「美しいなあ」と感じるのかという事例を紹介しようとおもいます.



景観性と機能性の関係

まず紹介するのは,イギリスのTyne川にかかるGateshead Millennium Bridgeです.

スパン長105m,道路の全長が130mの橋です.

ふたつのアーチと斜めにかけられたケーブルをもった,景観性の高い美しい橋ですね.

なるほど明らかに構造計算が普通ではなさそうなのでなんだか興奮してきます.


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Gateshead Millennium Bridge CC BY-SA 3.0


Gateshead Millennium Bridgeは船が通過できるような可動橋になっていて,橋全体をアーチの方向に45度傾けることでその下を橋が通過できるというエクストリームな橋になっています.


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跳ね上げた状態のGateshead Millennium Bridge CC BY-SA 3.0


カッコよすぎか.


しかし,よく見ると,デッキからの荷重がアーチの面外で作用していることに気が付きます.

つまりこのアーチは,通常の状態でも跳ね上げた状態でもアーチ橋としての構造の役割は果たしていないということになります.


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アーチ面方向に力がかかれば圧縮力に変換される(左)アーチ面外に力がかかるとアーチに曲げモーメントが生まれる(右)


この橋の構造解析についてまとめた論文*1 では,「Cable-stayed Bridge」という風に呼んでいます.

この橋の場合,個人的にはカンチレバー斜張橋に近い構造なのかなあなどと思っています.

具体的に似た構造だと思う橋の例を挙げると,Miho Museum Bridge*2があります.


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主脚がアーチ状のMiho Museum Bridge CC BY-SA 3.0


Miho Musesum Bridgeでは後ろの山にアンカーを打ってテンションをかけることでアーチへの曲げモーメントを殺しています.

対してGateshead millennium bridgeはアンカーを打つ先がありませんから,アーチ自体に大きな曲げモーメントが発生しているはずです.

つまるところ,アーチ自体とその両端にそれなりの強度を持たせる必要があります.


そう!ここが美しくない!


結果として,デッキに対してアーチの断面積がやたら大きくなってしまっています.ああ!

橋を跳ね上げるときにもそれなりに強い力が必要になりそうです.せつない!

さらに,これほどたくましいアーチを持つにもかかわらず,耐荷重の観点から車両の通行は許可されていません.リッチ!


もちろんこれも大変優れた橋であると思うし設計者すげえなあとも思っています.ぼくにはできないし・・・

ここで伝えたいことは,構造的な合理性が強く求められる橋梁において,派手なデザインをするのは容易ではなさそうということです.

そうそう,この辺に橋が好きになるエッセンスがある.



美しい非対称構造

次に紹介するのは,スペインのTuria川にかかるAlameda Bridge.スパン長が130mほどです.


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Alameda Bridge (quoted from The website of Santiago Calatrava)


こちらもアーチが傾いてますね.しかも桁の片側にアーチが寄っていて,ひとつしかついていません(!)


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断面はこんなかんじ


「力のつり合い」を考えると対称な構造をとることが合理的なハズ.これもまた大変にチャレンジングな橋に違いない!

うーん一体どういう風になっているのか,ちょっとしたモックアップを作って実験してみました.


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桁に見立てた糸を下に引くと,桁はアーチの傾いている方向に引き寄せられた


なるほどなあ,実際自分で支えながら力を入れてみるとよくわかる!

横向きの力が生まれますが,桁は幅があるので十分受け止められるということなのでしょう.


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傾けたアーチが作る横向きの力


ところで,橋はアーチの橋でヒンジを持つなり固定されるなりするので,桁とアーチそれぞれの荷重が橋にねじれを生みそうな気がします.

それとなくどうねじれがあるのかイメージしてみます.


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径間の中央付近で桁の荷重がつくるねじれM_1とアーチの荷重がつくるねじれM_2


ぼくはきちんと構造設計学んだわけではないのであんまり真に受けないでほしい*3のですが,まあ言いたいことは伝わるかと思いますw

なるほど,アーチの位置を寄せてしまったせいで桁から生じるねじれを,アーチがつくるねじれで打ち消していそう.

桁のねじれ剛性上げても死荷重が増えて余計ねじれそうなことを考えると,アーチを傾けるのが合理的だったってことかな.


これはッ・・・美しいッ・・・!


桁との釣り合いのおかげで,アーチ端で傾いたアーチを支える力を用意する必要もなさそう.やさしい!

アーチに曲げモーメントは生まれていないので,なんだか複雑な割にアーチの断面積も普通.せつやく!

そして複雑さが結果的に全体の剛性の高さに寄与している.ッうつくしい!


高い景観性と無駄のない機能美を両立した橋,見るほど味わいがあって本当に良いなあと思います.

まるさ的「橋の味わい方」が伝わってきたでしょうか(伝わらない).







橋のきもち,設計者のこころ

さて,今回は「橋の美しさ」のまるさなりの観点をお伝えしました.

なんだかぜんぜん伝わっていないような気がすごいしますが,大丈夫です.


アドベントカレンダーなのであと24本こんな記事が上がってきます.


橋がどういう気持ちになってその姿をしているのか,設計者がどんなこころでそのデザインをしたのか,

この連載で50以上の橋を紹介しながら妄想を繰り広げていきます.

なるべく足を運んで取材してきた橋を中心に紹介したいので,地域がだいぶ偏ってますがご容赦ください・・・




というわけで・・・

今回はこのへんで ノ

まるさ


・・・(初日なのに盛り上がりすぎた)







*1:Z A Blandford, "A Clitical Analysis of The Gateshead Millennium Bridge," Bridge Engineering 2 Conference 2007, Univ. of Bath, UK

*2:詳しくは紹介しませんが,国内屈指の美しい橋だと思っています.

*3:本当は論文が読めるとよかったのだけど見つからなかった・・・